現在、那須塩原市の酪農家は、飼料や燃料価格の高騰、高齢化、そして後継者不足という極めて深刻な課題に直面しています。
担い手がいない状況では、高額な設備投資や牛舎の建て替えは大きな借金リスクとなり、経営を圧迫する要因となります。
こうした中、注目されているのが「健康経営」という考え方です。
これは、働く人の健康管理を「コスト」ではなく、将来の利益を生むための「投資」と捉える経営手法です。
今回は衛生管理者の視点を持った理学療法士が酪農現場に関わるメリットをお伝えします。
農業全体における健康経営の普及率

健康経営に取り組む企業は全国的に増加しており、2022年度の調査では上場・未上場合わせて3,169社が参加し、開始当初の約6倍にまで広がっています。
しかし、その多くは大企業や一部の中小企業に留まっており、農業分野における普及率は未だ発展途上にあります。
特に酪農業界においては、その多くが家族経営を基盤としており、従業員の健康管理や職場環境の整備が経営者自身の問題として直結しやすい構造にあります。
だからこそ、健康経営の考え方を取り入れることが、家族や従業員の持続的な就労環境づくりに直結するとされています。
中小規模の事業者においては、健康経営に取り組むことで「働きやすさ」や「経営の健全性」を対外的にアピールできる大きなメリットがあります。
那須塩原の酪農家が先行して取り組むことは、人材確保や離職防止における強力な差別化要因となり得ると思います。
那須塩原の酪農業に理学療法士が関わるメリット

那須塩原市は生乳生産量本州一を誇る地域ですが、生産者を守る仕組みの構築は簡単ではありません。この地で15年リハビリに携わってきた理学療法士・衛生管理者として、酪農現場に専門家が関わる具体的なメリットを3点お伝えします。
「身体のメンテナンス」によるコスト削減と就労の延長
高額な機材を導入できなくても、理学療法士が作業動作を分析し、身体の使い方を工夫することで、腰痛や膝痛などの慢性的な痛みを予防できるとされています。
これは、「高価な機械への投資」を「身体という資本へのメンテナンス」に置き換える、最もコストパフォーマンスの高い経営戦略といえます。
「働けなくなるリスクの回避と生活の質(QOL)の向上
農家の方は、病気や怪我に関わらず慢性的な腰痛・膝痛を抱えている割合が高いのが実情です。
痛みが慢性化すると治りにくく、万が一の病気の際にも「家に帰れない」「仕事に戻れない」という事態を招きます。
私が勤務する病院でも腰痛や膝痛に長年悩んでいる農家の方をたくさん見てきました。
「農家だからしょうがない…」「みんな我慢して仕事している」という事を口をそろえておっしゃっています。
早期から理学療法士が関わり予防に努めることで、生涯現役で充実した生活を送れる可能性が高まります。
「継がせたくなる・継ぎたくなる」魅力的な職場づくり
酪農の事業継承問題には、施設の老朽化や過酷な労働環境が深く関わっているとされています。
理学療法士が衛生管理者の資格を活かして関与し、身体的負担の少ない「科学的な作業管理」を導入することで、次世代が「これなら自分も続けられる」と思えるようにお手伝いができると思います。
実際に酪農家の方の見学に行った際には、「仕事自体は好き」「牛がかわいい」などポジティブな意見も多く聞かれました。
酪農家の方から見ても、酪農家以外の方から見てもより魅力的な職業になることを願っています。
結びに代えて:私のビジョン

私にはチーズや牛乳が大好きな子供たちがいます。子供たちが今後も地元の美味しい乳製品を食べ続けられるよう、そして誇るべき那須塩原の産業が途絶えないよう、私は理学療法士・衛生管理者として皆さんの「身体」という経営資源を守るパートナーになりたいと考えています。
「身体を痛めて辞めざるを得ない」というスパイラルを止め、健康で強い長く持続できる酪農業の発展に貢献したいです。
参考文献
酪農を社会科学で考える:生源寺 眞一,ミルクサイエンス,2023
酪農と地域資源循環:岡田直樹,農村計画学会誌,2019
健康経営の展開と課題:森 晃爾,総合健診,2018
健康経営は浸透したか:森永雄太,日本労働研究雑誌, 2023
これからの健康経営について:経済産業省ホームページ
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html


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