近年温暖化が進み、夏では、気温35度超える日が多くなっています。
2025年の栃木県は「史上最も暑い夏」となっており県内各地で猛暑日が観測されています。
厚生労働省も、温暖化に伴うリスク管理として、熱中症対策が必須であると呼びかけています。
特に外作業伴う仕事では、対策が必要であり、那須塩原市の代表的な産業である酪農業も例外ではありません。
今回は衛生管理者、理学療法士の視点から考えられる、熱中症対策についてお話しします。
熱中症の基礎知識
熱中症とは
熱中症は温熱環境下における体温上昇とそれに伴う全身の臓器障害です。
症状は、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、嘔吐、虚脱感など多彩な症状があります。
特に脳は高体温に対して非常に脆弱な臓器で、判断力の低下や、めまいなど意識に関わる症状を引き起こしやすい特徴があります。
農作業中の熱中症による死亡事故は増加傾向であり、9割が70歳以上です。
6月~8月が発症のピークですが、5月からも発症の報告があるため、暑くなる前の春先からの対策が必要とされています。
熱中症の重症度分類

日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2024を一部改変
Passive Cooling:エアコンの効いた部屋や木陰で安静に過ごす、衣服を調整するなど簡易的にできるもの。
Active Cooling:氷や水、機械などを使って、強制的に体温を下げる方法。太い血管付近に氷嚢を当てたり、氷水に体を浸すなど。
意識レベルの指標(JCS / GCS)
JCS(数字が大きいほど重症)とGCS(点数が低いほど重症)は、脳へのダメージを測る基準です。「自分の名前や場所が言えない」「視線が合わない」といった明らかな異変があれば、迷わず救急車を要請してください。
熱中症が疑わしい場合は以下のような流れで判断してください!

JSPO スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブックより一部抜粋
酪農家が熱中症になりやすい原因
非労作性熱中症と労作性熱中症
熱中症はその発症環境から2つに分けられます。
非労作性熱中症:高齢者や慢性疾患患者、要介護者でよくみられ、体の衰えにより、高温環境に対して十分な熱放散(発汗など)ができず体内に熱が蓄積する状態。
労作性熱中症:運動に伴う過剰な代謝熱の産生が、生理的な熱放散(発汗など)が追い付かず体内に熱が蓄積する状態。
高齢で外作業が多い酪農家は上記2つとも当てはまるため、熱中症にかかるリスクが非常に高くなります。
年代別の原因
農業者を集めた熱中症のアンケート調査では世代別に原因が異なるとされています。
65歳未満は熱中症に対する対策が不十分で、経験不足によるものが原因とされています。
65歳以上は農作業の経験が長く水分をこまめに取るなど対策していることが多い傾向があります。
しかし、高齢になると口の中の枯渇感や感覚が低下しやすいため、喉の渇きや自覚症状を感知しにくく、熱中症になりやすいため注意が必要です。
水分補給の落とし穴
気温15度、23度、30度の3つの環境で60分間運動した際の水分補給率を見た研究では、
「喉の渇きを感じない程度まで自由に飲んでいい」という条件で水分を摂取しました。
15度では発汗量の82%、23度では47%、30度ではわずか34%しか補給できていないという結果でした。
つまり、暑くなればなるほど、喉の渇きが癒えたと感じても、実際には体内の水分は全く足りていない「隠れ脱水」の状態に陥りやすいです。
喉の渇きは体重に対する水分の減少(脱水率)と深く関係していますが、感覚だけに頼ると気温が高い時ほど補給不足になります。
暑い日の作業では「喉が渇く前に、意識的に飲む」ことが科学的にも重要だと言えます。
酪農家向けの熱中症対策

生活習慣の見直し
飲酒や喫煙の習慣があると脱水状態の促進、循環不良による発汗機能の低下を招くとされています。ストレス発散のためには必要かもしれませんが、リスクが上がる認識をもってください。
また睡眠時間が7時間未満の場合、熱中症のリスクが高くなるとされています。
早朝から作業をする酪農家の方は特に注意が必要です。
適切な水分補給
口渇感に頼らず、脱水になり過ぎない目安として体重減少の2%以内の補給が推奨されています。
体重60kgの人の場合、体重減少1.2kg以内のタイミングでこまめに水分補給が必要になります。
牛舎の近くや玄関先などに体重計(デジタル表記のもので100g単位まで測れるもの)を設置して体重を測る習慣をつけましょう。
暑熱環境下での作業時は以下のような内容で水分補給が推奨されています。
① 15~20分ごとに補給
② 1回を150~250mlの量
③ 飲みやすい温度のもの(5 ℃~15℃程度)
④ 電解質と糖質を含んだもの(スポーツドリンクなど)
補給する中身は0.1~0.2%の食塩と糖質を含んだものが効果的で一般のスポーツドリンクが利用できます。糖質は4~8%程度の濃度が推奨されています。
以下は各作業別のスポーツドリンクの特徴と選び方です
搾乳・給餌などの「高強度な重労働」時
推奨:ポカリスエット
高めの糖質と電解質バランスが、搾乳や給餌で失われたエネルギーを即座に補給します。
激しい動きによるスタミナ切れや集中力低下を防ぎ、作業パフォーマンスを維持するのに最適です
長時間の見回り・牛舎清掃などの「持続的な作業」時
推奨:アクエリアス / ボディメンテ
アミノ酸やクエン酸を含有し、数時間に及ぶ見回りや清掃作業での疲労蓄積を軽減します。
スッキリした糖質濃度で飲み飽きにくく、日々のコンディション管理と水分補給を両立させます。
酷暑下の屋外作業・休憩時の「リフレッシュ」
推奨:GREEN DA・KA・RA
解説: 糖質約4.4%・塩分0.1%と、水分吸収に必要最低限の基準を満たしつつ、人工甘味料不使用の優しい設計です。日常的な水分補給として多めに摂取しても体に負担が少なく、作業の合間のリフレッシュや、作業後のクールダウンに最適です。
めまい・足のつりなど「脱水症状」の兆候がある時
推奨:OS-1(経口補水液)
めまいや足のつりなど、脱水症状の兆候が見られる際の「飲む点滴」として活用してください。
高い塩分濃度で細胞へ素早く水分を届けるため、常用ではなく救急用の備蓄として推奨します。
塩分や糖質が含まれない水や、お茶のみでは、血中のナトリウムが薄まり、低ナトリウム血症になりやすいです。低ナトリウム血症は血液中のナトリウムが少ない状態で、筋肉の痙攣や意識障害を起こします。水やお茶を摂取する場合は、梅干しや塩タブレットなどを一緒に摂取しましょう。
適切な服装
ベースレイヤー:コンプレッションウェア(接触冷感)
高い吸汗速乾性で気化熱による冷却を促進し、過酷な牛舎内での体温上昇を抑制します。
適度な圧迫が筋振動を抑えてエネルギーロスを低減し、長時間の作業に伴う筋疲労を科学的に緩和します。
推奨:アンダーアーマー「UAヒートギアアーマー」
メイン:空調服(ファン付き作業着)× ベストタイプ
衣服内の熱気と湿度を強制排出し、熱中症リスクを大幅に低減する衛生管理上の必須装備です。腕の可動域を確保するベスト型に粉塵防止フィルターを装着することで、酪農特有の環境下でも機能性を維持します。
推奨:サンエス「クールフィルターベスト」
ボトムス:遮熱・高通気カーゴパンツ
下半身に熱を滞留させない高機能素材により、深部体温の上昇を最小限に抑えます。
人間工学に基づいた伸縮性は、頻回な屈伸動作における膝や腰への物理的ストレスを軽減し、身体の自由度を保ちます。
推奨:バートル「4WAYストレッチ ジョガーカーゴパンツ」
頭部・首回り:麦わら帽子 × 水冷スカーフ
広範な遮熱で判断力低下を防ぐとともに、足首からの段階着圧により静脈還流を強力にサポートします。下肢のポンプ機能を助けることで、熱中症の初期症状である循環不全と、夕方の足のむくみを同時に解消します。
推奨:ザムスト「コンプレッション ゲイター」
暑さを見える化する
以下は熱中症予防の運動指針です。 ※酪農家の方は運動を作業と捉えてください

JSPO スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブックより一部抜粋
牧草の刈り入れやトラクター作業など牛舎から離れる場合は日陰が少なく、温度管理等が難しい事が予測されます。WBGT(暑さ指数)は、熱中症を予防するために熱環境因子(気温、湿度、輻射熱・日射)を取り入れた指標です。表の温度と危険度を見て水分補給や休憩の時間の参考にしてください。携帯できる計測器があるため、ズボンのベルトやトラクター手すりなど設置してください。
トラクター、牛舎設置用:A&D みはりん坊プロ (AD-5698)
【在庫品】 A&D 黒球付熱中症計みはりん坊プロ <熱中症指数モニター> AD-5698B アラーム 熱中症対策 学校 体育館 屋内 屋外 作業現場 倉庫作業 WBGT 633-1448 価格:4100円 |
携帯用:タニタ 黒球式熱中症指数計 (TT-562)
タニタ 黒球式熱中症指数計 熱中アラーム TT-562-NGD 熱中症対策 熱中症計 価格:8800円 |
暑さに耐えられる体づくり(暑熱順化)
暑さに耐性をつくることを暑熱順化といいます。信州大学の能勢博教授らの研究報告では、ややきつい運動の後30分以内に乳製品を摂取する習慣を続けると、血液量が約3%増加し、汗をかく能力(発汗感度)が向上しやすいとされています。またインターバル速歩(速歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返す運動)も熱中症に効果的とされています。
暑くなる夏前(5~6月頃)から牛舎と畑の間の移動や、運搬作業時に早歩きを取り入れ、作業後、30分以内に牛乳を飲む習慣をつくることで、効果的な熱中症予防策になります。
牛乳は習慣づくりのため、酷暑での作業中はスポーツドリンクを摂取しましょう!
まとめ
高齢化が進む酪農業では、喉の渇きを感じにくいうえに作業強度が強いため、科学的根拠に基づいた対策が不可欠です。
まずはWBGT計で「暑さの見える化」を図り、喉が渇く前に15〜20分おきの水分補給を徹底してください。作業前後の体重測定で「隠れ脱水」を防ぎ、空調服や接触冷感素材を組み合わせて物理的に体温上昇を抑えることも有効です。
また、作業後30分以内の「コップ1杯の牛乳」は血液量を増やし、熱を逃がしやすい体質を作ります。自治体や組合が一体となって、計測器の活用と「牛乳を飲む習慣」を推奨し、地域の大切な産業と命を守りましょう。
参考文献
熱中症の予防と治療:林谷俊和 他,小児内科,2026
暑熱順化と運動:山崎文夫,臨床スポーツ医学,2018
運動時における口渇感と生理的反応の関連性:鈴木英悟 他,日本生気象学会雑誌,2015
農業従事者におけるハウス栽培作業時の熱中症および水分補給の実態:斎藤雄司 他,日本生気象学会雑誌,2017
ハウス農業従事者における熱中症既往と生活習慣の関連:斎藤雄司 他,日本スポーツ健康科学誌,2019
衣服内空気循環が夏季暑熱環境下農作業時の体温調整反応に及ぼす影響:鈴木英悟 他,日本生気象学会誌,2012
メリハリをつけて歩くインターバル速足₋その方法と効果のエビデンス‐:能勢博,日本顎口腔機能学会雑誌, 2012
熱中症診療ガイドライン2024:日本救急医学会,2024,
https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
牛乳+運動による 「攻め」 の熱中症対策で暑さを克服できる強いカラダを作ろう!:Jミルク,2015https://www.j-milk.jp/knowledge/nutrition/f13cn00000000r74-att/h4ogb40000009k8r.pdf
スポーツ活動中熱中症予防ガイドブック:日本スポーツ協会,2025,https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid1437.html#guidebook
身体を冷やす服装:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/sagyou_anzen/attach/pdf/catalog-10.pdf


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