私の住む那須塩原市は、生乳の生産量、本州一です!
那須塩原市の生乳やチーズなどの乳製品は、市としてもアピールに力を入れています。
しかし、近年酪農家の高齢化に伴い、酪農業を廃業している人が多い現状がります。
継ぎ問題や経営難もあるが、体を壊し辞める人も少なくはないです。
那須塩原市にとっても、その地域に住む人にとっても酪農業の衰退は、深刻な問題です。
酪農業は、牛の世話をするため農機具や牛の飼料(餌)を運搬するなど、重量物を扱うことが多い!
重量物を扱う仕事で腰痛を訴える人が多く、腰痛は酪農家にとって改善すべき重要な課題です。
実は重量物を扱う際に、少しのコツや体の使い方で腰痛を予防できます。
そのコツは…物の置く位置と掛け声そして、体の使い方!
今回は酪農家に向けた、重量物の運搬作業における腰痛予防について、理学療法士と衛生管理者の視点からお伝えします。
持ち上げ動作で腰が痛くなる原因
負担なく運べる限界を超えている

厚生労働省の資料によると、重量物を持つときの上限は、男性は体重の40%、女性は24%までとされています。
細身な男性の酪農家で体重が60kgの場合は、上限が24kgになるため、30kg以上はある牛の飼料を持ち上げること自体が腰への負担を大きくしています。
もちろん1日1回ではなく何回も何十回も運搬するため、腰へ負担がかかり続けることが予測されます。
仕事する上では、やらなければならない場面があるため、運ぶ距離を短くする、台車を使うなどの工夫が必要です!
重量物の高さと距離による重さの違い

manual handling operations regulations 1992, health and safety executive より一部改変
重量物を取り扱い際はその重量物を持ち上げる高さと距離が腰への負担に大きく関与している。
例えば男性の場合、腰のあたりで25kgのものを持ち上げる程度の力を入れるとします。
同程度の力で、地面に置いたものを持ち上げる場合は、5kg程度の物しか持上げられません!
肩よりも高い位置でも同様です。
つまり足元や頭よりも高い位置で同じ25キロのものを持つ際は同程度の力では難しく、何倍もの力を入れなけれなりません!
その際に重量物を持ち上げる際は、足の力(大腿四頭筋)よりも、腰の筋肉(脊柱起立筋)を多く使用するとされているため、腰への負担が大きくなり、腰痛につながります。
また25kgのものを体の近くで持った場合に、そのまま肘を伸ばして持った場合は、15kg程度までしか持てないとされています。
重量物と体の距離が遠い場合もより大きな力を発揮させる必要があるため、この動きも腰痛につながりやすいとされています。
疲労がたまっている状態での作業

疲労がある状態と無い状態で重量物を持ち上げ動作を比較した研究では、疲労がある状態では、同じ動作でも、足の筋活動よりも、腰の筋活動量が増大し、腰痛につながりやすいとされています。
酪農作業は、反復して行う動作が多く、重量物の運搬もその一つです。
腰痛要予防には自分の疲れ具合も管理できる必要があります。
足首が硬い
腰や膝だけでなく、足首が硬いと腰痛につながりやすいとされています。
足首をテーピングで固定した状態での持ち上げ動作は、固定しない場合と比べて体幹の前傾が大きくなり、腰の筋活動量が増大するとされています。この姿勢では、重量物と体との距離が遠くなり、腰への負担が大きくなるため、腰痛に繋がりやすい事が考えられます。
また作業場である牛舎周囲は、足場が悪く、すべりやすい環境のため、柔軟性の低下はケガのリスクをさらに高めます。
理学療法士から見て、酪農家を長く続けるためには足首の柔軟性がとても重要だと思います。
酪農家のための腰痛予防
重量物の場所を腰の高さに
前述したように、体の距離と重量物の高さによって腰の負担は大きく変わります。
できる工夫としたら、例えば重い飼料やサイレージ袋は地面に置くのではなく、腰の高さの台や棚への収納がおすすめです!
逆に軽いものは腰から遠い足元または頭の高さに置くことで腰に負担をかけにくくなります
また重いものは、なるべく奥に置かず、手前に置くことが重要です
掛け声をかけながら動作を行う

「どっこいしょ!」と声をかける場合と、かけない場合で重量物を持ち上げる研究では、声をかけた場合は、声をかけない場合に比べて、腰の筋肉の活動量が少なく、足の筋肉(大腿直筋)の活動量が増加しました。
「どっこいしょ!」と声をかけることで、足をうまく使い腰の負担が減らせるということがわかりました。
これはShout(シャウト)効果といわれており、力を入れる際に声を出すことで、心理的限界と生理的限界の差を埋める現象です。
心理的限界とは、脳が身体の損傷を防ぐために無意識にかけているブレーキの事で、生理的限界は肉体の限界です。
つまり、声を出すことで、無意識にかけているブレーキを緩め、本来持っている力を出しやすくなります。
陸上のハンマー投げの時に、叫んでいる選手たちがわかりやすい例です。
重量物を持ち上げる際の「どっこいしょ!」は腰痛予防には有効な言葉だということです
動作の回数を決めて休憩する
前述したように、疲労がある状態では、腰痛になるリスクが高まります。
特に反復する作業では、腰の筋肉の血流量が減少しやすくなるため、さらに腰への負担がおおきくなります。
中腰などの同じ姿勢を6分間以上取ると腰痛になりやすいとされているため、運搬回数や作業時間を決めて休憩時間に腰を伸ばしたり、回したりなど軽いストレッチなどを意識して行いましょう!
負担のかかりにくい体の使い方を覚える

床から重量物を持ち上げる際は、スクワット法といって、しゃがんだ状態から持ち上げることが推奨されています。
股関節、膝、足首の力をつかって行うため、重量物と体の中心の距離が短く、腰への負担が少なく動作可能です。

反対に下半身は動かさず、床へ手を伸ばす方法では、体の中心と重量物の距離が遠くなり腰の筋力を過剰に使わなければいけないため腰痛のリスクが高いです。
腰を守るためには、安定してしゃがむための、股関節、膝、足関節の柔軟性が必要なことがわかります!
足首、股関節の柔軟性向上のストレッチや運動はこちらをご参照ください!
https://masuofuji.com/dairy-farmers-pain/
便利な道具に頼る
重量物の上限は体重によって変動があるため、小柄な酪農家さんは上限ギリギリのものを頻繁に運ばなければなりません。
自分の力だけでなく、アシストスーツや腰のサポーターなどを使用して負担を減らす事もおススメです!
特にアシストスーツは研究や開発が進んでおり、値段と性能を比較しやすいです。
また安価なものや、レンタルできるものもあるため手軽に試しやすくなっています。
メリット、デメリットを見て自分に合ったものをさがしてみましょう!
アシストスーツは農林水産省も推奨しています! アシストスーツ一覧
まとめ
那須塩原市の酪農業は、日本の食を支える大切な産業であり、地域の誇りでもあります。
しかしその一方で、重量物の運搬や反復作業による腰痛は、酪農家の方々が長く働き続けるうえで大きな障壁となっています。
腰痛は「年齢のせい」「仕事だから仕方ない」と思われがちですが、
物の置く位置・体との距離・高さ、掛け声、体の使い方、そして休憩の取り方など、
少しの工夫で予防できる可能性が高いことが、理学療法や労働衛生の研究から分かっています。
- 重い物は腰の高さ・体の近くに置く
- 「どっこいしょ!」と声を出して足の力を使う
- 疲労を溜め込まず、作業回数と休憩を意識する
- スクワット動作と、足首を含めた柔軟性の維持
- 無理をせず、台車やアシストスーツなどの道具を活用する
これらは特別な設備がなくても、今日から実践できる腰痛対策です。
酪農家一人ひとりの身体を守ることは、
結果として地域の酪農を守り、次の世代へとつなげることにつながります。
酪農家を守り、那須塩原市の大切な産業を守っていきましょう!
参考文献
腰部負担からみた我が国の重量物持ち上げガイドラインについて:労働安全衛生総合研究所
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2024/187-column-1.html
疲労が重量物の持ち上げ動作に及ぼす影響:福田春花 他,日職災医誌,2014
重量物持ち上げ動作におけるShout効果に関する筋電図学的研究:田中絵梨 他,日職災医誌,2017
足関節可動域制限が重量物持ち上げ動作に及ぼす影響:藤村昌彦 他,日職災医誌,2019


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